【横浜F・マリノス インタビュー②】大切なのは、どこを目指すのかを決めて自分に集中すること。プロサッカー選手から学ぶ、“上司とのブレないコミュニケーション術”

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横浜F・マリノス インタビュー

第一回目の取材記事は、こちらのリンクよりお読みいただけます。

企業をはじめ、どのような組織でも上司と部下の関係性に代表される上下関係が存在します。

その指揮系統が組織をうまくまわす仕組みの一つである一方、上司の立場でも部下の立場でも、良好な関係性づくりに頭を悩ませている方も多いのではないでしょうか。上下関係があるのは、生存競争が激しいプロフェッショナルの世界でも同じです。

今回は、2023年3月からランスタッドがオフィシャルパートナー契約を締結した、横浜F・マリノスに所属する宮市亮選手、喜田拓也選手、永戸勝也選手、西村拓真選手の4人に、“上司”にあたる監督とのコミュニケーション術や心の持ち方についてランスタッドで組織心理を専門とする川西由美子がファシリテーターとして伺いました。

川西さん-1インタビュアー
川西 由美子(かわにし・ゆみこ)
ランスタッド株式会社 組織開発ディレクター
臨床心理学や産業組織心理学の専門家。その知見を活かし、日経ビジネス電子版で定期連載や、ベトナムやインドネシアの企業・大学でも研修・教育活動を行う。2006年にはプロサッカー選手のメンタルトレーナー、2005~2009年には旭化成の陸上部のメンタルトレーナーに就任し、ニューイヤー駅伝で15位→2位に引き上げた実績を持つ。

 

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「組織の中で自分がどう生きていきたいのかを考えて実行する」/喜田選手

ランスタッド:プロサッカー選手の皆さんには、監督という立場の“上司”がいらっしゃいますね。選手としては、監督にアピールして試合への出場機会を得ることが大事になるのではないかと思います。良い仕事をしていれば、監督が見てくれていると考えているのか。逆に、監督の考えに寄せたプレーを選択するのか。さまざまな選択肢があると思います。それは一般人の世渡りに近く、ビジネスパーソンのヒントにもなると思いますので、皆さんの考え方を教えてください。

永戸:僕は監督から注意されることが多いです。反射的に「なにくそ」と思うこともありますが、「本当に嫌われているのであれば言われない」という気持ちで受け止めています。「言われているうちが華」と昇華していますね。

ランスタッド:監督のリクエストに対しては、どのように応えようとされていますか。

永戸:試合に出たときに良いパフォーマンスを見せられるように、まずは自分に矢印を向けて、自分が取り組むべきことに集中しています。

喜田選手2

喜田 拓也(きだ・たくや)

1994年8月23日生まれ、29歳。神奈川県出身。170cm/64kg。ポジションはMF。13年、横浜F・マリノス加入以降、横浜FM一筋の“バンディエラ”。キャプテンを務める横浜FMを代表する顏の一人でもある。毎年、ホーム最終戦のあいさつでは、一ミリも隙のないメッセージをよどみなく発し、多くのファン・サポーターからリスペクトを集める人格者。

喜田:僕は監督にアピールしようと考えたことはありません。自分のやるべきことをやっていれば、見てくれる人は見てくれていると思っています。これは企業で働く方も同じだと思いますが、「何のために仕事をしているのか」という視点を大切にしています。「組織の中で自分がどう生きていきたいのか」を行動に反映すると、僕の場合は「チームのためになりたい」「仲間の助けになりたい」という想いがあるので、それを実現するために逆算して自分に何ができるのかを考えて実行しています。その行動を周りが認めてくれていれば、チームや仲間のためになっているのだろうし、認めてくれなければ、自分の力不足だと捉えています。もちろん監督の意図を汲み取ることは大事ですが、周りにアピールするより、自分に何ができるのかに重きを置いています。

ランスタッド:組織心理学では『パーパス経営』という概念があります。「会社の目的のために自分ができることはないか」という視点を持った従業員がいる企業は強く、成長する傾向があるという考え方です。「チームのために自分に何ができるのか」という思考は、まさに『パーパス経営』の考え方と重なりますね。

 

「監督がどう思うかはコントロールできないからこそ、自分にベクトルを向ける」/宮市選手

西村:僕はそれぞれの監督に求めることがあるように、それぞれの選手にも個性があると考えています。僕はとにかく自分を成長させることにフォーカスしています。喜田くんと同じように、僕も監督にアピールする意識はありません。自分が成長できれば、監督が求めているものに対して、うまくマッチして良い時間を迎えられる可能性が高まると思っています。逆に求められるところに届かなければ、そのクラブを去ることを考えなければいけません。だから、自分に集中して、自分が成長することしか考えていません。

ランスタッド:それが西村選手の考え方なのですね。

西村:「監督の期待に応えよう」という考えよりも、「チーム皆で勝ちたい」という想いがありますね。そのために自分にベクトルを向けることが、結果的にチームのためにもなると思います。

宮市:大前提として、それぞれの監督にやりたいサッカーがあります。企業で言えば、理念にあたるサッカーの指針を示してくれるのは監督です。僕たちはその指針に近付けるようにやるだけです。ただ、拓真(西村選手)も言いましたが、自分にベクトルを向けた上で、いかにフィットさせるかを大切にしています。そして、監督は他人なので、自分ではコントロールできない存在です。自分のプレーに対し、監督がどう思うかもコントロールできませんし、予期せぬアクシデントが起きるかもしれません。他人の気持ちはコントロールできないので、そこに引っ張られること自体が無駄だとも感じます。自分にベクトルを向け、自分をいかに成長させられるかどうかが試合に出るための一番の近道だと考えています。

宮市選手2

宮市 亮(みやいち・りょう)

1992年12月14日生まれ、30歳。愛知県出身。181cm/77kg。ポジションはFW。11年、中京大中京高(愛知県)を卒業後、Jリーグクラブを経由せずに渡欧し、イングランドの名門アーセナルに加入した日本を代表する快速ウイング。その後、オランダ、ドイツのクラブを渡り歩き、21年夏、横浜F・マリノスに加入。ファン・サポーター人気はNo.1。元日本代表。

 

「上司といえども人と人。オープンマインドで接し、受け入れる気持ちが必要」/永戸選手

ランスタッド:プロの世界は厳しく、監督が代われば、方針も変わると思います。その時々の“上司”である監督とうまくリレーションを築いていくのが、プロの世界で生き残る一つの術かもしれません。皆さんはどのように監督と良好な関係性を築くようにしていますか。

喜田:もちろん自分にフォーカスすることも大事ですが、監督は組織のトップです。亮くん(宮市選手)が言ってくれたように、監督のやりたいこと、指針はとても大切なので、前提としてのリスペクトは大切になります。仮に自分のやりたいことと違ったとしても、受け入れる工程は必要ですね。自分のやりたいことしかやらないのではなく、監督の考え方に歩み寄った上で、自分へフォーカスするという流れです。その順番は間違えてはいけないと思っています。監督のリクエストであれば、自分の苦手なことであってもトライしなければいけませんし、それはサッカーでも一般企業でも共通するはずです。これについては、みんな似通った考え方だと思います。                               

永戸:あとは上司といえども、人と人との関係だということを忘れてはいけないですよね。コミュニケーションを密に取りつつ、オープンマインドで接し、受け入れる気持ちが必要だと思います。

永戸選手2

永戸 勝也(ながと・かつや)

1995年1月15日生まれ、28歳。千葉県出身。173cm/72kg。ポジションはDF。法政大を経て17年、ベガルタ仙台に加入。鹿島アントラーズへの移籍を経て、22年、横浜F・マリノスに加入した。左足から放たれるキックは高精度で、サイドバックながら攻撃も持ち味。女性サポーター人気が非常に高いチームトップクラスのイケメン。

 

ランスタッド:宮市選手は海外経験も長く、日本とはまた違う価値観の中でプレーしてきたと思います。日本とはカルチャーの異なる国のクラブや国籍の異なる監督と、どのようにして信頼関係を築かれていましたか。

宮市:自分が指導を受けたのは、アーセナル時代の監督だった、アーセン・ベンゲルさんをはじめ、偉大な監督ばかりでしたので、むしろ、監督の方から歩み寄ってきてくれました。皆さんオープンマインドで人と人のつながりを大事にしていて、選手が気持ち良くプレーできる環境を作ってくれていたと感じます。企業でも、組織全体や上司が働きやすい環境を作ってくれるなど、部下だけでなく、上からのサポートやフォローも重要なのではないかと思います。

ランスタッド:部下が上司を理解しようとする姿勢と、上司が部下の働きやすい環境を整備することの両方を掛け合わせることで、理想の職場が生まれるということですね。

宮市:同じ目標に向かっていくには、双方がお互いを慮る気持ちが大切だと思います。

 

「芯を持っていなければ、上には行けない」西村選手

ランスタッド:西村選手は監督との関係づくりで意識していることはありますか。

西村:例えば、自分が試合に出られていないときや、自分のパフォーマンスが良くないときは、自然と他人に目が行ってしまうことがあると思います。でも、その沈んだ時期にも監督からのリクエストに向き合って、自分に矢印を向けていける選手が長く現役を続けているし、より上にいけているイメージがあります。

西村選手2

西村 拓真(にしむら・たくま)

1996年10月22日生まれ、26歳。愛知県出身。178cm/73kg。ポジションはFW。富山第一高を卒業した15年にベガルタ仙台に加入。CSKAモスクワ(ロシア)などへの海外移籍を経験し、22年、横浜F・マリノスに加入した。リーグ随一の運動量を誇り、スタミナは無尽蔵。ピッチ外の“天然キャラ”はチームメイトやサポーターから愛される。元日本代表。

 

ランスタッド:周りと比べず、常に自分に矢印を向け続けるというのは、一般的には非常に難度が高い作業だとも感じます。自分に矢印を向け続けられる秘訣を教えてください。

 西村:やはり、勘違いしないことです。自分を客観的に見ることができるようにならないといけませんし、何より自分の芯を持っていなければ、プロの世界では上に行けません。

ランスタッド:西村選手は日本代表に選ばれるなど、一般からみると華々しい経験をされているなと感じます。それでも、勘違いせずにコツコツと日々の努力を積み上げていくために、どのような意識をもって取り組まれているのでしょうか?

西村:自分がどこを目指しているか、だと思います。その“どこ”によって、勘違いするのか、それとも、まだまだ上を目指すのかが変わってくるはずです。

ランスタッド:なるほど。とても素晴らしい考え方をご提示頂き、ありがとうございます。
皆様のお話を伺って、常に視座を高く持ち、どのような環境でも自分に矢印を向け、努力を続けられる人たちが、選ばれしプロフェッショナルになれるのだとも感じました。皆さんの姿勢は必ずビジネスパーソンのヒントとなるはずです。

本日は貴重なお話をありがとうございました。 (取材日:2023年8月8日

<川西由美子の組織心理 解説>

最高のパフォーマンスを出しながら、上司と良好な関係を保つときの3つのポイントを紹介します。

1、組織の中で自分はどう生きたいのか、何のために仕事をしているのか考える
2、上司の思いを理解するためのコミュニケーションをする
3、自分に矢印を向けて最高のパフォーマンスについて日々改善を行う

3どれが欠けても、自分も上司もハッピーになるコミュニケーションは築けません。4人の選手の表現はそれぞれ違いましたが、3つのポイントはしっかりと抑えていました。

上司との関係においても、バランスが取れていて、大変学びが多いインタビューになりました。ご協力を誠にありがとうございました!

編集・構成/大林洋平

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