【横浜F・マリノス インタビュー①】それぞれの強みを生かすことが、チームの力につながる。プロサッカー選手から学ぶ、“人間力アップ”の秘訣
ランスタッドは今シーズンから横浜F・マリノスとオフィシャルパートナー契約をしています。
そこで今回は宮市亮選手、喜田拓也選手、永戸勝也選手、西村拓真選手を招いて、『人間力アップ』をテーマにお話を伺いました。プロフェッショナルな人材でもある4選手はどのような優れた“人間力”を持っているのでしょうか。
ランスタッドで組織心理を専門とする川西由美子がファシリテーターとして、プロサッカー選手の魅力に迫りました。
インタビュアー
川西 由美子(かわにし・ゆみこ)
ランスタッド株式会社 組織開発ディレクター臨床心理学や産業組織心理学の専門家。その知見を活かし、日経ビジネス電子版で定期連載や、ベトナムやインドネシアの企業・大学でも研修・教育活動を行う。2006年にはプロサッカー選手のメンタルトレーナー、2005~2009年には旭化成の陸上部のメンタルトレーナーに就任し、ニューイヤー駅伝で15位→2位に引き上げた実績を持つ。 |
「チームメイト想いで、周りを見る余裕がある」喜田拓也選手
ランスタッド:本日、進行を担当しますランスタッドの川西と申します。よろしくお願い致します。
まず本題に入る前に、弊社ランスタッドがどのような会社なのかを紹介させて頂きます。オランダに本社を置く世界最大の総合人材サービス会社です。
手掛けている事業は人材派遣サービスや人材紹介サービス、テクノロジーサービスなど多岐にわたります。日本国内では人材業界上位6~10位の規模で、1日3万人ほどの方が弊社を通じて働いてくださっています。
今シーズンから横浜F・マリノス様とオフィシャルパートナー契約を結ばせていただきました。
弊社紹介はここまでにして、本題に入ります。今回のテーマは『人間力アップ』です。
あらかじめ、さまざまな関係者から収集した事前情報を基に質問させていただきます。キャプテンでもある喜田選手は語彙力があり、チームをまとめる能力も素晴らしいと聞いています!ぜひ、よろしくお願いします。
喜田 拓也(きだ・たくや)
1994年8月23日生まれ、29歳。神奈川県出身。170cm/64kg。ポジションはMF。13年、横浜F・マリノス加入以降、横浜FM一筋の“バンディエラ”。キャプテンを務める横浜FMを代表する顏の一人でもある。毎年、ホーム最終戦のあいさつでは、一ミリも隙のないメッセージをよどみなく発し、多くのファン・サポーターからリスペクトを集める人格者。
喜田:話す前からプレッシャーがスゴイですね…(笑)
宮市:もう彼にすべて喋ってもらえれば(笑)
喜田:すごくハードル上げてきますよね(笑)
宮市:こんなにも和気あいあいな感じで大丈夫でしょうか?
ランスタッド:お話をピックアップしていくので大丈夫ですよ!肩の力を抜いて話してくだされば嬉しいです。話を戻しますが、喜田選手は試合中、F・マリノスの選手はもちろんですが、倒れた相手選手や審判の方を気遣うほど、気配りの人だと伺っています。他の皆さまから見た喜田選手はどのような方なのでしょうか。
宮市:彼は僕の年下ですが、チームの中で一番しっかりしていると思います。
西村:僕は喜田くんよりも年下ですが、年齢の上下関係なく誰にでも常に気を遣ってくれています。先日、僕がケガしたときにはLINEを送ってくれました。「どんな感じ?」とフランクな文面ではありましたが、常にキャプテンとして、周りに気配りや目配りをしているように感じます。
ランスタッド:西村選手の言葉を聞いて、喜田選手はどのように感じましたか?
喜田:そうですね…。僕はすべてのチームメイトを大切に想っています。それに対して、他の選手たちに「どのように思ってほしい」という願いはありませんが、気に掛けていると感じてもらえているのであれば嬉しいですね。
ランスタッド:喜田選手にとって、それは当たり前の振る舞いなのですよね。
喜田:そうですね。特別なことをしようとは考えていません。
ランスタッド:では、喜田選手と同い年の永戸選手はどのように見ていますか。
永戸:僕は試合中、自分のことで精一杯なのですが、キー坊(喜田選手)は周りを見る余裕があります。昨シーズン、試合中に主審の方がケガをしているのに、キー坊がいち早く気付いたりして、同い年ながら余裕を感じますね。僕はいち早く、給水しに行きましたが…(笑)
「自分のペースを貫き、オンとオフをしっかり使い分ける」永戸勝也選手
永戸 勝也(ながと・かつや)
1995年1月15日生まれ、28歳。千葉県出身。173cm/72kg。ポジションはDF。法政大を経て17年、ベガルタ仙台に加入。鹿島アントラーズへの移籍を経て、22年、横浜F・マリノスに加入した。左足から放たれるキックは高精度で、サイドバックながら攻撃も持ち味。女性ファン・サポーターからの人気が非常に高い、チームトップクラスのイケメン。
ランスタッド:永戸選手は後輩たちの憧れの先輩で、プレー面では頭脳派だと聞いています。皆さんはどのように見ているのでしょうか。
宮市:まさに頭脳派ですね。いつも落ち着いていますし、それがプレーにも表れています。あと、とてもマイペースで我が道を行くイメージもありますね。
西村:マイペースですよね。「自分を持っているな」という感じです。AB型なので、あまり周りのことを気にしていない日本人離れしたところがあると思います(笑)。
ランスタッド:後輩からの憧れ‥‥という面は、西村選手から見ていかがですか?
西村:僕にとっては、憧れではありません(笑)。ただ、オンとオフをしっかり使い分けている印象があるので、リスペクトしています。
喜田:後輩が憧れているのは、カツ(永戸選手)の空気感だとか、人間味の部分ではないでしょうか。本人は「余裕がない」と言っていますが、その中にも熱いモノを秘めています。周りに乱され過ぎず、自分のペースを貫く余裕に、後輩たちがすごく憧れているのが見てとれますね。同い年ですが、男としての魅力や色気、余裕を感じます。
ランスタッド:皆さん、面と向かって相手の良いところを話すのは照れくさいと思うのですが、ありがとうございます。それを聞いて頬が緩んでいる気がしますが、永戸選手はいかがでしょうか‥‥?
永戸:気持ちいいです(笑)。
「プロの中でも、突出してサッカーに心血を注いでいる」西村拓真選手
西村 拓真(にしむら・たくま)
1996年10月22日生まれ、26歳。愛知県出身。178cm/73kg。ポジションはFW。富山第一高を卒業した15年にベガルタ仙台に加入。CSKAモスクワ(ロシア)などへの海外移籍を経験し、22年、横浜F・マリノスに加入した。リーグ随一の運動量を誇り、スタミナは無尽蔵。ピッチ外の“天然キャラ”はチームメイトやサポーターから愛される。元日本代表。
ランスタッド:次にピッチでは、黙々とストイックに走る西村選手については、皆さんどのような印象をお持ちでしょうか。
宮市:サッカーという競技に対して常に真っ直ぐ向き合い、すべてを注いでいると思います。プロサッカー選手として、アスリートの中でも突出してサッカーに心血を注いでいる姿勢に凄みを感じます。
ランスタッド:西村選手は、ピッチで見せる顔と普段の顔が違うとも聞きました。
喜田:結構、天然キャラです。少し抜けていたり、一つネジが外れているところがありますね(笑)。でも、それで周りに迷惑を掛けるわけではありません。むしろ周りが和む“抜け方”なので、それが皆に愛される理由だと思います。ピッチでは、試合にガッと入り込む拓真(西村選手)とピッチ外での少し抜けた拓真のギャップに、みんな憑りつかれているのではないでしょうか。
ランスタッド:憑りつかれている、と。喜田選手はやはり語彙力が素晴らしいですね。
喜田:一つ一つ拾われると、しゃべりづらいです(笑)
宮市:もう、このコメントだけでいいんじゃないですか(笑)
ランスタッド:すみません!気をつけますね(笑)。永戸選手はいかがでしょうか。
永戸:僕はベガルタ仙台で一緒にプレーをしていたので、拓真が高卒新人で加入してきた18歳から知っています。当時から一度、一つのことに照準を合わせると、それを見続ける力であったり、入り込んだときの集中力はとても高かったです。拓真は年下ですが、常にストイックにサッカーのことだけを考える姿勢は、「自分もそうなれたらいいな」と思わせてくれる存在です。
喜田:拓真は住んでいる世界が違います。
西村:逆に僕は、サッカーから離れられないことを自分の弱さだと感じています。(オンとオフを分けられる)カツくんのような部分が欲しいと思っています。僕にはオフがない状態です。自分でオフを作り出せないので、そこが自分の弱さだと感じています。
ランスタッド:オフでは天然キャラという意見もありましたが、西村選手としては、そこはオフではないのでしょうか。
西村:そうですね‥‥。常にサッカーのことばかりを考えて、生活してしまっているという意味ではオフではありません。
喜田:拓真の“天然行動”はサッカーのことを考え過ぎて、他のことを忘れてしまっているのかもと感じますね。
ランスタッド:なるほど。常にサッカーに集中しているから、視野が少し狭まっているというイメージなのでしょうか。それによって、何か困っていることはありますか。
西村:常にサッカーに集中している状態だからといって、常に良い結果が出るわけではないです。さまざまな視野を持ったほうが、自分の幅も広がると頭では理解しているのですが、なかなか厳しいです‥‥(笑)
ランスタッド:心理学では「思っている事はやれる事」という考え方があります。思っていない事は実現しませんが、常に思っていると無意識の領域で思っていることが働き出すという思考法です。「さまざまな視野を持ったほうが、自分の幅も広がる」と思っているのであれば、今はなかなか難しくても、無意識のうちにマインドが切り替わってくると思いますよ!
西村:今は、食事以外には見当たりません‥‥(笑)。本来、人とワイワイと騒ぐことが好きなのですが、あえてやっていない部分があります。バランスが難しいところです。
ランスタッド:常に頭をサッカーで埋めておかないと、心地よくないということでしょうか。
喜田:さまざまなタイプの選手がいると思います。オンでもオフでも、常にサッカーのことを考えないと不安な選手もいれば、オンではピッチで影響力がありながら、オフでは遊ぶときは遊び、オンとオフをしっかりと使い分けられる選手もいると思います。
「ポジティブな思考をみんなに与えられるのは特別な力」宮市亮選手
宮市 亮(みやいち・りょう)
1992年12月14日生まれ、30歳。愛知県出身。181cm/77kg。ポジションはFW。11年、中京大中京高(愛知県)を卒業後、Jリーグクラブを経由せずに渡欧し、イングランドの名門アーセナルに加入した日本を代表する快速ウイング。その後、オランダ、ドイツのクラブを渡り歩き、21年夏、横浜F・マリノスに加入。ファン・サポーター人気はNo.1。元日本代表。
ランスタッド:最後は、イングランド、オランダ、ドイツと渡り歩き、何度も大ケガを乗り越えてきた、宮市選手についてお伺いします。昨シーズンもケガをしているとき、裏方に回って選手を支えてきたと聞いています。
永戸:亮くん(宮市選手)は常にポジティブで明るいです。何事もポジティブな方向に持っていく力がある人で、僕にはその力がないのでいつも助けられています。
宮市:いや、カツにもあるでしょ(笑)。
喜田:まず経歴が素晴らしいです。普通は高卒ですぐに海外には行けません。それだけの能力を持った選手が日本に帰ってきて、みんなにフランクに接し、率先してチームのために動いたり、話してくれたりすることが、みんなの心に響いています。なおかつ、亮くんは数多くの苦しい経験をしてきました。それを乗り越えたからこそ出せる味、できることがあります。彼がチームにもたらすパワー、意味をひしひしと感じています。
宮市:ありがとうございます。
ランスタッド:海外を経験しているのに偉ぶらないし、鼻高々でもなく、チームのために動いてくれる方なのですね。
西村:亮くんはとても人間味がありますね。そして、一般の人ではできそうにない、ポジティブな思考をみんなに与えられるのは特別な力だと感じています。
ランスタッド:『ポジティブ思考』というキーワードが出ました。宮市選手自身が、日頃から意識している点はありますか。
宮市:僕は無理に前を向こうとしないように意識しています。人間なので、ネガティブな感情も時には出てしまうと思います。でも結局はそれを受け入れた上で、どこかのタイミングで気持ちを切り替え、ポジティブな方向にも持っていかなければいけません。何か悔しいこと、悲しいことが起きたとき、無理にポジティブに切り替えようとするのではなく、自分なりに昇華しながらポジティブな方向にも持っていくようにしています。
ランスタッド:私は国内外の病院で臨床していた経験があるのですが、実際、ネガティブ思考よりもポジティブ思考の患者さんのほうがケガの治りが早かったです。改めてお伺いしますが、宮市選手は直近、どのようなケガだったのでしょうか。
宮市:直近では、右膝前十字靭帯断裂を負い、完治するのに10カ月かかりました。そのケガが大きかったです。
ランスタッド:周りのサポートはいかがでしたか。
宮市:すごくポジティブな言葉を掛けてもらいましたね。それこそ、クラブ、チームメイト、ファン・サポーターから前向きな言葉を掛けてもらったからこそ、僕も前向きになれました。自分だけというよりは、色々な人の力を借りて前向きになったということです。
ランスタッド:ケガをする前の状態に戻らないかもしれない、という不安はなかったですか。
宮市:ケガに付きまとう不安も、職業の一部だと思っています。ケガをしてもまた前向きにやっていくしかありません。お客さんに観ていただく立場なので、中途半端なパフォーマンスでは戻れない。プロとして、自分のメンタルをケアすることも大事な要素だと考えています。
「F・マリノスは、ファン・サポーターが素晴らしい」
ランスタッド:素晴らしいプロ意識ですね。最後に皆さんの“マリノス愛”を聞かせてください。
永戸:何よりもファン・サポーターの皆さんが素晴らしいです。僕が移籍してきた昨季、コロナ禍の影響で観客が少ない状況で試合をしていました。今では多くの方が観に来てくれるようになり、よりありがたみを感じています。試合中の応援や、勝ったときに一緒に喜べること、負けたあとのファン・サポーターの皆さんの振る舞いは本当に自分を奮い立たせてくれます。「サポーターのために頑張りたい」と思わせてくれる存在ですね。
西村:昨季加入してから、F・マリノスのエンブレムの意味や、所属したからこそのF・マリノスのすごさを感じています。チームメイトは全員ピュアで、そんな選手たちと一緒にプレーできてうれしいですし、心の底から「サッカーを楽しい」と感じています。
ランスタッド:いいお話ですね。
宮市:僕自身、日本ではF・マリノスが初めての所属チームです。選手もサポーターもクラブのスタッフもみんなが同じ方向を向いて、クラブの理念に沿って歩みを進めていると感じています。「目標に向かって一致団結するとはこういうことか」と実感させてもらっている、とてもいいクラブです。
ランスタッド:最後は、キャプテンにお願いします!
喜田:僕は長くF・マリノスに所属していますが、在籍期間の長さでクラブ愛の深さが測れるわけでも、偉いわけでもないと思っています。期間が長くても短くても、このクラブにいる間だけでもいいので、選手たちにF・マリノスを好きになってもらいたいですね。ましてやプロの世界なので、「好き」だけではクラブに居たくても、居られません。このクラブに所属する間は、ありがたみとともに、その重みも感じなければならないと思っています。今の僕には今のチームメイトと勝ちたい想いや、今のクラブを良くしたいという想いしかありません。その積み重ねが今なので、これから先も少しでもクラブが良くなるよう、助けになりたいです。
ランスタッド:皆さんのお話から、横浜F・マリノスというクラブや組織の皆さんの一体感が伝わってきました。また、選手の皆さんから伺ったそれぞれの印象には、多様な強みや個性を持った方が、ひとつのチームとしてお互いに受け入れ合って刺激をもらい、さらに信頼し合っていることが伝わり感動いたしました。本日は貴重なお話をありがとうございました。 (取材日:2023年8月8日)
<川西由美子の組織心理 解説>チームがうまくまわらない要因の一つに、他者の意見を受け入れられないことが挙げられます。今回の取材を通して、チームがうまくまわり、結束力高く、結果を出すための要素を、横浜F・マリノスの選手から学びました。
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編集・構成/大林洋平
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