本を読むと新しい発想が沢山浮かんできて、そちらを考え出すと本が全く先に進まないことがよくある。これは日々の思考が固定化しいる証拠である。毎日、同じことを考え、同じ人と話していると思考が固定化してくる。本はそんな時に新たなインスピレーションを与えてくれる。本という媒体を通して、異なるテーマを疑似体験し、自分の脳に刺激を与えていくのである。
キャリア構築においてこの体験の多様性が重要になってきている。
採用に関わるコンサルタントとして、日本とシンガポールで同じ日系メーカーのお客様を担当していた時のことだ。数年前の話ではあるが、日本では厳格に1社経験若しくは最大2社経験の人のみを紹介してほしいという依頼だった。まさに当時の日本の慣習を如実に表している。どこの会社もそうで、転職回数が多い人は採用したくないという思想が強くあった。
1年違いでシンガポールで同じお客様にあった時に、3社経験未満の人は紹介しないでほしいと言われた。1社しか経験しておらず1社のやり方しかわからない人は思考の柔軟性が低い傾向があるとのことだ。もちろん社会人経験年数とのバランスが重要であるが、15年で1社だと厳しいとはっきり言われた。
今、この両極端な2つの事例の間位に我々は立っているのではないだろうか。
大手メーカーがこぞって早期退職で40代、50代の方々が退職をしていく中で、転職回数が少ないほうがいいという発想はもはや薄れつつある。一方で3年に1回転職するのが当たり前というシンガポールのようになっているわけでもない。
これは1社で働き続けることの美徳と転職してキャリアを構築することの対立を煽るような話ではない。大事なのはキャリアの中でどれだけ多様な経験を定期的なサイクルの中でできるかというのが重要になってくる。多様というのは一概に転職して色々な会社を経験することだけではない。
多様な経験を積むとはどういうことか?
リアルな経験
- 同じ職種の中でも、異なるレイヤーを経験していく
- 同じ会社の中でも、異なる仕事を経験していく
- 同じ職種でも、規模やプロダクト、マーケットが異なる会社を経験する
- 同じ会社で同じ職種でも、クロスファンクショナルなプロジェクトを経験する
- パートナー企業や関連会社など価値観の異なるステークホルダーとのプロジェクトを経験する
- 副業をする
- ボランティアなど仕事とは別の社会での活動に取り組んでみる
疑似体験
- 異なるレイヤーや部門の仕事をシャドーイングする(ミーティングなどに参加させてもらう)
- 異なるレイヤーや部門の人にメンターになってもらう
- 異なる会社や職種の方にメンターになってもらう
- 本を読む
転職をして様々な経験をするというのはわかりやすいですが、1社で長く働いている人でもキャリアを成功させている人は意思をもって経験の機会を獲得し、経験の多様性を育ぐくみどこでも活躍できる人材になっているはずです。
転職というのはその中の1つの選択肢なのです。ただ1つだけ、転職というのは他の選択肢以上に体力を使うものです。辞めることへの難しさ、新しい環境への対応、アンラーニングとリスキリング、バイアスとの闘い、マインドのリセット、想像もしない困難にぶち当たることもあります。だからこそ成長の幅=経験の多様性が広がりやすいのです。
様々な体験の選択肢を組み合わせて、自らのキャリアをどうデザインしていくか悩むことがキャリア構築の第一歩になるでしょう。
プロフィール
ランスタッド株式会社 人事本部 部長
人材会社の日本法人を経て、2010年~シンガポールへ移住。グローバルカンパニーのアジア太平洋州地域の経営人材のヘッドハンティングを行うエンワールドにてシンガポール法人のカントリーマネージャーを経験。その後、帰国し、経済メディアニューズピックスなどを運営するユーザベース社にて日本・アジア地域の人事・採用の責任者等を歴任。現在は、ランスタッド日本法人人事本部にて部長を勤める。日系・外資系、スタートアップ・大手、日本・アジアでの経験を通して6カ国の上司にレポートし、17カ国籍のメンバーのマネジメントを経験したことにより自らの多様性への感受性を育んできた。