目的の明確化、そして”郷に入りては郷に従え” - ソーシャルメディア/SNSマーケティングの今と未来
転職支援や人材派遣を展開する世界最大の総合人材サービス ランスタッドでは、「人材の観点から日本のマーケティングを盛り上げていくことはできないか?」という考えのもと、マーケター向けLinkedInグループ「マーケみらい」をスタート。ここでしか得られない情報やイベント、ネットワーキングやディスカッションの場を提供してまいります。
記念すべき第一回のイベントとして、BMWジャパン・TikTok for Business Japan・株式会社デジタルシフトからゲストをお呼びし、『マーケティングの現在地と未来』をテーマとしたトークセッションを開催いたしました。
BMWジャパン様との対談記事に続き、第二弾として『ソーシャルメディアマーケティングの今と未来』をテーマに、TikTok for Business Japan様、株式会社デジタルシフト様とのトークセッションの要約記事を公開いたします。
“企業が利用するソーシャルメディア”の観点から、現時点での最新トレンドや使われ方の変化、そして未来に向けて企業がどのようにソーシャルメディアと向きあっていくべきかを、業界を代表する企業の2名に伺いました。
Harman Chan 様
TikTok for Business Japan
Global Business Solutions Japan Marketing Brand Strategy
Senior Brand Strategist
日系大手広告会社と外資系広告会社にて、日本・APAC・MENA地域でのストラテジック・プランニング職を経て、2021年2月より現職。TikTok for Businessでは消費者調査とインサイト分析を率いる。マーケティングプラットフォームとしてのTikTokの使い方の開発に取組中。
https://www.linkedin.com/in/hoi-mang-harman-chan-872a3aaa/
弘岡 大樹 様
株式会社デジタルシフト
ソーシャルメディアマーケティング部
部長
インフルエンサーマーケティング専門会社にて大手コスメ・アパレル企業等のマーケティング支援に従事し、2018年にオプト入社。ブランド領域のPRプランナーとして、FMCG大手のPR業務全般を担当。
2021年からソーシャルメディアマーケティング部の部長に着任し、同年4月に企業のマーケティングにおけるDXを推進するグループ会社のデジタルシフトに出向。ソーシャルメディアマーケティング全般のソリューション(公式アカウント運用、ソーシャルキャンペーン、インフルエンサー、ライブコマース等)を提供する事業部を管掌。
https://www.linkedin.com/in/daiki-hirooka-66422020a/
薄葉 裕樹(ファシリテーター)
ランスタッド株式会社
マーケティング&ブランドコミュニケーション本部
シニアマネージャー
株式会社オプトにて大手不動産ポータルサイトのデジタルマーケティング全般の支援や新規開拓に携わる。その後、ウォルト・ディズニー・ジャパンにて、デジタルを活用したテレビ視聴率の底上げと効果の可視化、動画配信サービスのグロースハックに従事。
2018年3月より現職。BtoC・BtoCの両サイドにおいて、デジタルのみならずオフラインやイベントも含めたマーケティング活動全般をリード。また、在宅特化型の人材派遣サービスの企画立上げから推進も担当する。
https://www.linkedin.com/in/hirokiusuba/
■ソーシャルメディア/SNSの最前線と現在地
ー 薄葉
TikTokといえば、恐らくここ3年ほどで最も成長したプラットフォームの 一つかなと思うのですが、ユーザー層やその使われ方に変化はありましたか?
ーハーマン様
恐らく今日の参加者の方の中にもTikTokをまだ使っていないという方もいらっしゃると思うので、簡単にTikTokはどういうものなのかという紹介をさせていただきます。
一言で言うと、個人的にすごくしっくりくる言葉なんですけど、TikTokは “ザッピングアプリ” なんじゃないかと考えています。テレビで見るものがない時に、リモコンを持ってチャンネルを変えながら見たいものを探すという行為がいわゆるザッピングですが、まさにそういうことをTikTokでやっているんじゃないかなと思っています。
TikTokの特徴は大きく二つあります。
一つ目が強制視聴なしの短尺動画です。色々な動画が次から次へと出てきて、好きなものがあったら見ればいいですし、興味がないものなら上にちょっとスワイプしたら次のものがすぐ出てきます。動画のほとんどが平均1分以内の短尺動画です。
もう一つの特徴としては、独自のレコメンドシステムです。ユーザーがTikTokを見ながら、色々スワイプしていく時に、機械学習によってユーザーの趣味嗜好を分析し、そのフィードから出てくるものを最適化していくような仕組みになっています。そのため、人によってフィードから出てくるコンテンツが本当に全然違います。
「機械学習をするということは、結果的にその人が好きなコンテンツばかりがフィード上に出てきてしまうのでは?」と思う方が多いかもしれないのですが、実はそうじゃないんです。例えば10本の中で1〜2本ぐらい、そのユーザーが示した興味に全然関係ない動画も意図的に表示させるようにしています。その目的は、ユーザーに新しいものとの “出会いの機会” を与えることで興味範囲を広げていくことなんです。実際に約半分のユーザーが「おすすめ動画で自分の新しい好きなものを見つけた経験がある」と答えています。
質問にあったユーザー層の変化に関しては、「TikTokって若い方がすごく多いプラットフォームでしょ?」とよく言われますが、ここ3年間のユーザー層の推移を見ると、毎年どんどん25歳以上の層も増えてきています。2021年8月の時点で、実は25歳以上の方がすでに約60%を占めているんです。
コンテンツに関しても、エンタメコンテンツや教養系、情報系のものは数多くあります。例えば、#TikTok教室というものがあって、専門的な知識を1分ぐらいにギュッとまとめたような動画が多数投稿されています。
ー 薄葉
実は私自身も3年前は正直まだTikTokにあまり注目していなかったんですよね。マーケター失格です(笑)
ただ、最近は当たり前のようにTikTokを見て、そこで自然に情報を得ることも増えてきていて。ちょうど今年、車を探しているときに、ディーラーの情報だけじゃなくて実際のユーザーの情報が知りたいということでTikTokを活用していました。TikTokで気になっている車に関する短尺動画をサクサク見て、本当に気になったものはYouTubeで長尺のレビュー動画を見るという感じです。
こうした自分自身の経験からも、TikTokに投稿される動画の幅が広がってるなと感じましたね。
ーハーマン様
今ではほぼどんなプロダクトやサービスでも、TikTok上で関連のコンテンツがたくさんあると思います。
例えば車に関しても多くの動画がありますし、実際にその投稿を参考にしている方も多いです。特に「意外性のある車の情報が多い」「その車を探す時にコメント欄を参考にしている」と回答しているユーザーが多いですね。
ー 薄葉
続きまして株式会社デジタルシフトの弘岡さんに質問させていただきます。
弘岡さんは代理店という立場で様々な企業のソーシャルメディア/SNSの活用に取り組まれていると思います。企業が公式アカウントを作って活用していくということは当たり前になってきてると思いますが、どのように使うかという観点で企業のニーズは変わってきているのでしょうか?
ー弘岡様
すごく変わってきているなと思っています。ソーシャルメディア/SNSの重要性が企業の中で日に日に増していると感じていますね。
まず大きな変化として、そもそものソーシャルメディア/SNS活用の目的の変化です。以前は新規顧客の獲得を目的としたソーシャルメディア/SNSマーケティングが主流でしたが、より「既存顧客と関係値をどう構築していくのか?」という方向にシフトしてきています。
次に運用方法の変化です。これまで企業の公式アカウントは、弊社のような広告代理店や運用代理店に委託するケースが多かったのですが、ここ数年は「社内に専任の担当者を立ててインハウス化していきたい」といった動きがより加速しています。そうした中で弊社もこれまで培ってきたノウハウを活用し、企業様のソーシャルメディア運用のインハウス化をご支援するサービスも提供し始めています。
そして最後に、プラットフォームの変化です。これまではTwitterやInstagramで公式アカウント運用というケースが多かったのですが、昨今、TikTokやYouTubeの公式アカウントを運用する企業も増えてきています。
このような変化の中で増えてきている企業課題が大きく2点あります。
まずは動画の活用です。情報量の点では動画の方がより「インプットする」という点ですごく進んでいます。ただ、どのような動画を作っていけばいいか分からないというご相談が増えています。
次に「どのプラットフォームを活用していけばいいのか?」という点で、弊社もご相談を受けることが多いですね。顧客接点を最大化するためには「すべて運用したほうがいい」と思いつつも、やはりその目的や課題に応じてしっかりと優先度をつけて運用していくところが大切だ、とお伝えしています。
■ソーシャルメディア/SNSをどう選択し、どう活用していくか?
ー 薄葉
僕自身も前職で公式アカウントの運用をしていたこともあって、一つでも大変なソーシャルメディア/SNSを複数運用する大変さは身にしみて感じているのですが、やはりターゲットによって使うプラットフォームを変えたほうが良いのでしょうか?複数運用したほうがいい?
ー 弘岡様
やはりソーシャルメディア/SNSはあくまで手段の話なので、まずはしっかりと目的を設定して、その中でどういったメディアでどういったコンテンツを発信していくかを設計することがより重要になってくるかなと思っています。
「使いたいメディアありき」でご相談をいただくケースも多いんですが、そもそもソーシャルメディア/SNSを活用するにあたってどういった課題があって、その課題に対してどういう風な解決をしていきたいのかというところをしっかりすり合わせることが重要で、それに合ったメディアを選んでいくべきだと。そういったところを意識しながらお話しするケースは多いですね。
ー 薄葉
ハーマン様がいる前ではなかなか言いにくいところもあるかもしれないですが、TikTokはどういった目的で使っていくのがいいと思いますか?
ー 弘岡様
あくまで私の所感ですが、どちらかというとInstagram、 Twitterは「フォロワーとどういう風にコミュニケーションを取っていくか」という部分が強いメディアかなと思っています。一方でTikTokに関しては、これまで自分が興味なかった分野にも出会える、新しい発見のようなところがすごく強いメディアだと僕自身は捉えています。新規顧客をとっていくにはTikTokはすごくいいメディアじゃないかなと思っています。
ー 薄葉
ハーマンさん、ということですけどもいかがでしょうか?
ーハーマン様
ユーザーの情報収集の形が大きく変わってきていると思います。情報量がすごく増えてきた時に、情報に対して耐性が上がってきたという方もいる一方で、ちょっと飽きてきたというような人たちも増えてきています。結果として、情報収集のやり方も変わってきたなと思うんですよ。
例えば、何か知りたいものがあれば 、それを検索したり、ソーシャルメディア上で自分の興味のあるアカウントをフォローしたりという形で情報を「取りに行く」ことが多いですよね。
一方で、TikTokのユーザーはあくまで自分のオススメフィードでエンタメとして色々な情報を無意識に楽しんでいるだけなんですが、その結果として情報を「吸収して興味を形成している」のかなと思っています。
自分も知らなかった予想外の情報が流れてきて、それがきっかけとして潜在的な気持ちに気付き、興味があれば情報をより詳しく見つけにいくというのがTikTokの一つの使い方としてユニークな部分じゃないかなと思います。
ー 薄葉
既存顧客とエンゲージメントを高めていくためのソーシャルメディア/SNSがこれまでとすると、TikTokは全く違った切り口でのソーシャルメディアの使い方を提案してくれるプラットフォームということなんですね。
■未来に向けた企業公式のあり方、UGCとの向き合い方
ー 薄葉
今後もソーシャルメディア/SNSの重要性がどんどん増していくことは間違いないと思うんです。背景として、ガチガチの広告が消費者から嫌われていることが挙げられます。消費者からは無意識のうちに「どうせ嘘か誇張でしょ?」と認識されてしまうケースが増えてきているように感じます。
そうした背景もあり、未来に向けてソーシャルメディア/SNSとどう向きあっていくべきか、という点についてお二人にご意見を伺いたいと思います。
その際に大きく2つの軸があると思っていて、一つは企業公式アカウントをどう運用していくか、どう向き合っていくかという点。もう一つはUGC、自分たちがコントロールできないユーザーが作ってくれるコンテンツと企業がどう向き合っていくべきか、という点です。まず弘岡さんはどうお考えでしょうか?
ー 弘岡様
先ほどお伝えした部分と一部重複するかもしれないのですが、企業公式としての向き合い方に関しては、目的と課題の明確化、そこに対してのターゲットと戦略、KPI設計の部分などをしっかり作った上で、各メディアの特性にマッチしたコンテンツを発信していくことが重要な部分だと思っています。ソーシャルメディア/SNSはあくまで本質的にはユーザーが使うメディアなので、ユーザー視点を意識したコンテンツの制作・発信が大事になってくると思っています。
UGCに関しては、やはりその顧客のリアルな体験をソーシャルメディア/SNSであげていくという形になるので、なかなかコントロールができない部分もあるとは思います。その中でどういうコミュニケーションを展開していけばUGCが創出されるのか、そこを戦略的に考えるコミュニケーションが重要になってきます。そして、そういったコミュニケーション設計の部分こそが、今は弊社のような代理店に求められている部分なのかなと思っています。
戦略的なUGCの創出、コミュニケーションの設計から手段の部分、インフルエンサーやソーシャルキャンペーン、リアルなイベントなどUGCを生み出すきっかけをいくつかの設定を設けながら設計することが重要になってくるだろうと捉えています。
ー 薄葉
UGCを戦略的に創造するというのは結構新しい取り組みだと思いますが、実際そういったことに取り組んでいる企業も多いのでしょうか?
ー 弘岡様
多いと思いますね。UGCを創出したいという企業様の相談も多いです。一般の方が投稿したいと思わないとなかなかソーシャルメディア/SNSに投稿されないので、まずはKOL(Key Opinion Leader)を活用することが効果的かなと思っています。
ー 薄葉
次にハーマンさんにもぜひこの観点をお聞きしたいんですけども、企業公式、UGCとの向き合い方についてどんなふうに考えていらっしゃいますか?
ー ハーマン様
実はその2点に共通して僕たちが意識しているものがあります。
TikTokに限った話ではなくて、それぞれの媒体にも通用する話だと思うんですが、ユーザーがその媒体に行く時に何かの目的は絶対あるはずです。その目的に反しないというか、そのユーザーが求めている体験を邪魔しない、それを尊重するというところが非常に大事じゃないかなと思っています。
公式アカウントもUGCもそうなんですが、企業の入り方っていうのが実は結構難しいんです。簡単に言うと「郷に入れば郷に従え」 じゃないんですけど、そのプラットフォーム上でいろんな文脈があります。例えば、その時の社会的トレンド、カテゴリ内のトレンド 、TikTok内での新しいトレンドが常に発生しているので、まずそれを見て知ることが重要です。そして、各ブランドの本来の性質とそのトレンドを合致させていくというプロセスが非常に大事かなと思います。
■TikTokのコンテンツ制作方法に正解はあるのか?
ー 薄葉
企業公式としてTikTokアカウントを作ろうと考えた時に一番のハードルになるのがコンテンツだと思うんですよね。TikTokの中でコンテンツを制作して上手に活用されている企業の事例も増えてきているのでしょうか?
ー ハーマン様
「企業アカウントをどうやって運用すればいいんですか?」という問い合わせが非常に増えてきております。社内には事例がたくさんあって、それを分析していくと手法みたいなものが少し見えてきます。
ただ一つ言えるのは、「これをやっておけば必ずバズる!」といった必勝法は無いということです。例えば、同じコンテンツを3ヶ月ぐらい投稿してめっちゃくちゃバズるかもしれないですけど、今日投稿したらそれがバズるかどうかというと全然バズらないというようなことも非常に多いんです。
つまり、何が大事かというと、「こういうポイントを押さえたら大丈夫」というよりも、「継続的に検証し続けることができる仕組み作り」です。コンテンツ自体よりも、それを作っていく仕組み自体を確立させていくことが非常に大事だと考えています。
プラットフォーム上の色々なコミュニティで常に色々な会話が行われているので、コメント欄を見て、「皆こういうことを見たがってるんだ」「皆こういうことを求めているんだ」という点を知って、コンテンツを設計していくことをおすすめしています。
ー 薄葉
すごく初歩的な質問で本当に勉強不足で申し訳ないんですけども、TikTokで投稿していくコンテンツは面白くなければいけないわけではないんですよね?
ーハーマン様
TikTokに来る人たちの目的は大きく二つだけなんです。
一つは、本当にエンタメ目的なので、面白くて見たことがないようなエンタメだったら流行ったりします。
もう一つの側面はやはり情報収集です。わざわざTikTokにきて関連キーワードを見たり、検索したりはしてないんですけど、それを探しているというような人たちも実は結構いますね。
ー 薄葉
つまり、面白くなければいけないということではなく、何を目的にしたコンテンツかを明確にするほうが重要で、情報発信が目的なのに中途半端に面白さを加えようとしても逆効果ということかもしれませんね。
■メタバースの可能性とは?
ー 薄葉
ちなみに、弘岡さん、未来のソーシャルメディア/SNSの活用を考えた時に、プラットフォームはどんな形で変わっていくと考えていますか?例えばメタバースはどのように活用されていくと思いますか?
ー 弘岡様
メタバースについては、次世代のソーシャルメディア/SNSになりうると思います。
今はちょっとバズワードみたいなところで各社様が取り組んでいるところがありますが、今後の新しいソーシャルメディア/SNSの可能性、メタバース上でもコミュニケーションするみたいなところは期待できるんじゃないかなと考えています。
私自身10年以上この業界にいるんですが、ソーシャルメディア/SNS自体もすごく移り変わりが激しいですよね。そういった中で、各企業がメタバースに限らず各プラットフォームにフィットした、その時々の情報の伝え方を常に考えて、常に変えていく必要はあるんじゃないかなと思っています。
今後、そういったところもすごく楽しみですね!