マーケターは「購入」がゴールではいけない - BMWが推進する新時代のマーケティング

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BMWが推進する新時代のマーケティング

転職支援や人材派遣を展開する世界最大の総合人材サービス ランスタッドでは、「人材の観点から日本のマーケティングを盛り上げていくことはできないか?」という考えのもと、マーケター向けLinkedInグループ「マーケみらい」をスタート。ここでしか得られない情報やイベント、ネットワーキングやディスカッションの場を提供してまいります。

記念すべき第一回のイベントとして、BMWジャパン・TikToik for Business Japan・株式会社デジタルシフトからゲストをお呼びし、『マーケティングの現在地と未来』をテーマとしたトークセッションを2022年7月13日に開催いたしました。

今回はその第一部として開催されたBMWジャパン様とのトークセッションの要約記事を公開いたします。電気自動車や自動運転など様々な技術進化が進む一方で、若者のクルマ離れが叫ばれる今、代表的な高級車メーカーの一つであるBMWではマーケティングがどのように展開されており、未来に向けたマーケティング課題をどのように考えているのでしょうか?

遠藤 克之輔 様
BMWジャパン ブランドマネジメント本部 本部長

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家電メーカー等を経て、ワンダーマン電通にてダイレクトマーケティング・デジタルマーケティング及びCRMのマーケティングコンサルタントとして数々のマーケティング業務に携わる。ウォルト・ディズニー・ジャパンにてカンパニーワイドなCRMプロジェクト立ち上げの後、ギャップジャパンで日本でのマーケティング・クリエイティブ・PR全体を統括。
フェラーリ・ジャパンにてブランドおよび全国オフィシャルディーラーネットワークも含んだマーケティング・ディレクターを経て、現在はBMWジャパンにてマーケティングを統括。
https://www.linkedin.com/in/katsunosuke-endo-a8586824/

薄葉 裕樹(ファシリテーター)
ランスタッド株式会社 マーケティング&ブランドコミュニケーション本部 シニアマネージャー

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株式会社オプトにて大手不動産ポータルサイトのデジタルマーケティング全般の支援や新規開拓に携わる。その後、ウォルト・ディズニー・ジャパンにて、デジタルを活用したテレビ視聴率の底上げと効果の可視化、動画配信サービスのグロースハックに従事。
2018年3月より現職。BtoC・BtoCの両サイドにおいて、デジタルのみならずオフラインやイベントも含めたマーケティング活動全般をリード。また、在宅特化型の人材派遣サービスの企画立上げから推進も担当する。
https://www.linkedin.com/in/hirokiusuba/

■BMWマーケティングの現在地

ー 薄葉
まずBMWマーケティングの現在地ということで、現在どういったマーケティングに取り組まれているかについて伺っていきたいと思います。

僕が最初にクルマに興味を持ち始めた頃は、まだまだテレビCMを中心としたマスマーケティングが主流だったと記憶しています。もちろん今はデジタルやソーシャルメディアなど様々なチャネルが増えてきいますが、BMWのマーケティングはどのように変わってきて、今どういった取り組みをされているのでしょうか?

ー 遠藤様
BMWのブランドでとても大事にしているのは、ブランドの持っている情緒的な価値です。クルマを購入する際、クルマに対してどのような感想、思いを持っているかは人それぞれで、その方が生きてきた時代や経済、身の回りの環境により異なります。そのようなお客様とどのようにして最初のコンタクトをとって、ブランドの持っている情緒的な価値を伝えるかを考えています。BMWジャパンの「駆け抜ける喜び」というスローガンをお客様ひとりひとりの体験に落とし込み、どのように気持ちが動くかを大事にしたマーケティングを行っています。

以前のマスマーケティングの時代と大きく異なる点は、体験型のマーケティングを積極的に展開しているという点です。端的に言うと、クルマに乗ることや、クルマを取り巻くアートや音楽、旅などの様々なライフスタイルの体験を通じて、そのクルマやブランドに親近感を持ってもらう、ブランドに対して深く体験してもらうようなマーケティングを現在は心がけています。

そして、デジタルやソーシャルメディア、TikTokでの動画フォーマットなども通じて、ライフスタイル寄りの体験をどのように届けていくかも現在のマーケティングにおいては重要なポイントです。

■クルマ業界におけるマーケティングKPIとは?

ー 薄葉
クルマというと一般的に購買までのカスタマージャーニーが長い商材ですよね。また、メーカー、ディーラー、その先に消費者と、最終的な消費者までの距離も長い。結果としてマーケティングにおけるKPI設定や効果の可視化が難しいのかなと感じます。BMWではマーケティングにおけるゴールやKPIはどういった点に置かれていますか?

ー 遠藤様
ブランドとマーケティング、セールスとマーケティングという二つに分けられます。

特にブランドについては定性的な調査が大きなKPIになっています。ブランドに対してどのような好意度を持っているか、どんなところに好意度があるのか、そのブランドが提案しているさまざまな価値というものは競合ブランドと比べてどのように受け止められているのか、などを定量的に、定期的に観測していきます。この観測により、BMWのブランドが立っている位置を相対的、全体的に把握しています。

セールスとマーケティング、いわゆるビジネス寄りのKPIは、まずはダイレクトマーケティングのプロセスに沿って、見込みのあるお客様に対してどれぐらいリーチできているか、そしてその中からどれぐらいの方から「見込み客」としてコミュニケーションできる個人情報を獲得できているかを見ます。そこからお客様のそれぞれの状態に合わせた(クルマの)モデルが絞られ、購買への意欲度がだんだんホットになってきて、最終的にご契約いただく方がどれぐらいいるかを見ています。これがアクイジション寄りのKPIです。

その後はリテンションやロイヤル化という観点で、どれぐらい長く乗ってもらえるか、車検やメンテナンスなどをしてもらえるか、イベントに参加いただいているかというようなところを見ています。

まとめると、アクイジションとリテンションの2つの大きなフェーズに分け、セールスとマーケティングのビジネスのKPIを見ています。

マーケティングの細かいKPIの話をすると、デジタルコンテンツへのリーチ、クリック、エンゲージメントのレートなどもあります。また、ビジネスのことでいえばコンバージョンなどの細かなレベルでディーラーのマーケティングも含めて総合的にマネジメントをしています。

■消費者マインドの変化とBMWの対応

ー 薄葉-
次に少し切り口 を変えたり質問をさせていただこうと思います。消費者サイドもここ数年で大きく変化してきていると感じます。最近では商品やサービス単体での差別化が難しくなってきていると思うんですね。そんな中で、消費者がこれまで以上に企業が持つパーパスやSDGsへの取り組み、ソーシャルグッドといった企業の価値観とか倫理観を重要視してきているのかなと。そうした中でBMWが行っているメッセージングについても変化はあったのでしょうか?

ー 遠藤様
ソーシャルグッドや地球環境、社会のコミュニティのためにどういった取り組みをしているかというパーパスの視点では大きな変化がありましたね。我々でいくと、それはサステナビリティということに尽きます。我々BMWが変わったというよりは、むしろ社会にいらっしゃる皆様がそういった観点に対して非常にアンテナが鋭くなってきた。その中で、我々のサステナビリティへの取り組みに注目をいただけるようになったのだと思います。

実はBMWは1972年にすでに電気自動車を世に出しているんです。その年にドイツで開催されたミュンヘンオリンピックのマラソン競技の先導車が、実はBMWの電気自動車だったんです。このように我々はかなり以前からサステナビリティということで電気自動車や環境に配慮したクルマの開発、さらに「クルマを作り、長期間乗っていただき、最終的にスクラップして再生する」というサーキュラーエコノミーに関してもかなり以前から取り組んでいます。

この数年、特にマーケットにいるお客様自身が サステナビリティに関して非常に関心が高くなってきました。そして、BMWジャパンが長年届けてきたメッセージに対して改めて「地球環境やサステナビリティに関しての取り組み」として関心を持ってもらえるようになったという実感があります。

もう一つの観点として、以前はクルマの速さや排気量などのスペックに関心を持つ方が多く、そうした点を重視したメッセージングが多かったのですが、今ではクルマを通じてどんなライフスタイルが実現できるのかや、クルマに乗ることでどんな気持ちの高まりが持てるかという観点も重要視しています。

例えばBMWジャパンでは、「駆けぬける喜び」をお客様と共有しあう#JOYMOVESMEキャンペーンを今年からスタートしました。「JOY MOVES ME」とは、「JOYがあなたを突き動かす」ということです。クルマの運転だけではなく、クルマに乗る方、クルマが周りにある方、そのクルマを通じて家族または友人と過ごした思い出や体験、時間などをお客様同士で、またはBMWブランド側と一緒に共有しあえるようにソーシャルメディアでポストしていただくキャンペーンを行っています。

■BMWがソーシャルメディアに見出す価値とは?

ー 薄葉
BMWはソーシャルメディアも幅広く使われていますね。Twitter、Facebook、Instagramに加えて、youtube、LINE、さらに最近はTikTokまで幅広く使われていて、ソーシャルメディアが重要な立ち位置になっていると感じるのですが、ソーシャルメディアをどういった目的で使われていますか?

ー 遠藤様
ソーシャルメディアを用いる目的は大きく2つです。
1つ目は、新しいお客様にブランドの原体験を味わってもらうことです。ブランドに関心を持っている方々により関心を持ってもらえるための様々なコンテンツ展開の場として利用しています。

もう1つは、ブランドへのエンゲージメントです。クルマだけではなくてサステナビリティ、「駆け抜ける喜び」といったBMWというブランドの世界観を一緒に楽しんでいくことを目的としています。新たに展開している#JOYMOVESMキャンペーンもその一つです。

この2つの目的で、TwitterFacebookInstagramYouTubeLINETikTokなどで様々なオリジナルコンテンツを作ってポストしたり、お客様同士のコミュニケーションを促したりしています。

■BMWマーケティングが見据える未来に向けたチャレンジとは?

ー 薄葉
次に視点をBMWマーケティングの未来に向けていきたいと思います。3年後、5年後、10年後を考えた時に、BMWマーケティングの最も大きなチャレンジは何だと考えてらっしゃいますか?

ー 遠藤様
現在は、クルマ自体がプロダクトとして、そして産業として大きく変革している途中です。 電気自動車をはじめ、燃料電池、シェアリングエコノミー、自動運転、空飛ぶクルマのようなものも出てきて、プロダクト自体が大きく変わり始めています。その中で、「社会との関わり」というクルマが元々持ってきた価値を引き続き届けられるのかという点がマーケティングの中では大きな機会や挑戦です。

そして、デジタル環境の変化についてもチャレンジがあります。デジタル環境はテクノロジーの変化と共に5年後、10年後、もっと広がりを持ってくると感じています。個人的な主観でいうと、クルマそのもののマーケティングだけではなく、お客様が環境として住む世界やタッチポイントが大きく変化していくはずだと思っています。

例えば「メタバース」については、BMWジャパンでもすでに取り組みを行っています。あるラジオ局と一緒に、今年のゴールデンウィークに初めてメタバース空間でBMWのクルマについて話し合うラジオ番組を展開しました。また、昨年はメタバース上にBMWジャパン40周年を記念するデジタルのコミュニティを作ってライブ配信もしています。今後もこういったメタバースをはじめ、デジタルの空間でお客様とどんな接点を持っていけるかというのは大きな機会だなと感じています。

ー 薄葉
メタバースの実践的な活用は先進的な取り組みですね!今時点ではまだまだバズワードかもしれませんが、10年後にはメタバースも当たり前の世界になっているでしょうね。

■クリエイティブなタッチポイントとしてのTikTokの可能性

ー 薄葉 
今日、第二部ではTikTokにもご登壇いただくんですが、御社でもすでに活用されているという中で、TikTokにはどういった可能性があると感じていますか?

ー 遠藤様 
BMWジャパンでは今年からTikTokのオフィシャルアカウントを開設して、クルマにまつわる様々なコンテンツをポストしたり、お客様にハッシュタグを付けて投稿いただく取り組みをしています。

先ほどもご紹介した#JOYMOVESMEキャンペーンでは、お客様が#JOYMOVESMEというハッシュタグでダンス動画を投稿しています。また、とても有名なダンサーであるSAMさん(TRF)とELLYさん(三代目J SOUL BROTHERS)が#JOYMOVESMEのダンス動画を作ってBMWジャパンのオフィシャルムービーとして展開しているのですが、そこで出てきた「BMWのロゴをかたどったオリジナルダンス」を皆さんが取り入れてくださっており、大きな盛り上がりを見せています。

TikTokの中でお客様ご自身がクリエイターのような感性でBMWや#JOYMOVESMEキャンペーンについて思ったり感じたところを自由に表現しているのを見て、「これは新しい形でブランドとお客様がコミュニケーションをし合えるクリエイティブなメディアタッチポイントだな」と可能性を感じています。

BMWジャパンが今後こういったお客様とどんな風にTikTokのようなデジタルメディアでコミュニケーションできるのか非常にワクワクしています。

■これからのマーケターは「購入」で終わってはいけない

ー 薄葉 
最後に、長年マーケティングの最前線で様々な業界で活躍されてきた遠藤さんに、これからのマーケターに求められるであろう視点に関して一言アドバイスをいただければと思います。

ー 遠藤様 
「購入以降のお客様との中長期的な関わりをどうやって持っていくのか」という視点が、今後のマーケターには非常に重要になってくると思っています。

ブランドやメーカー、会社が持っているパーパス、「社会のためにどうしてこの企業が存続しているんだろう」という存在理由、お客様自身がその企業に対して持っていたり見つけたりしている価値というものがあります。私はマーケターとして「お客様が商品やサービスを利用し始めてから、それをどのように高め、共有し合っていけるのか?そしてお客様自身にその企業やブランドに対しての価値を発見してもらうには何をすればいいのか?」という点に注目しています。

購入してから改めてそのプロダクトに価値を見つけるということで「サービスドミナントロジック」という言葉があります。企業がお客様に対して「私たちのブランドはこうだよ」ということではなくて、お客様自身がそのブランドやサービスに価値を見つけて、楽しむ、愛するということが非常に重要になってくるのではないでしょうか。

ブランド側に立つマーケターは、特にお客様自身が何に価値を見つけてくれているのか、それはどこから来ているのか、どんな源泉があって、マーケターはどうやってお客様と中長期的にコミュニケーションしていけるのかということを常に考えながら、今後の「新しいマーケティング」というのを作っていく必要があると思います。

ー 薄葉 
自分が担当するブランドへのパッション、購入しただけで終わりではなくてそこからどうやってそのお客様と繋がりを持ち続けるか、その源泉を探る、こうしたマーケターとして持つべきマインドや視点を改めて教えていただきました。ありがとうございました!

 

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